1985
この年のことは本当を言うとあまりよく覚えていない。
3月にはひろみ郷との破局会見。涙ながらに「生まれ変わったら一緒になろうねって約束しました。」と語った。リアルタイムでは見られなかったが、それでも何度かプレイバックでは見たような気がする。
ああ、聖子ちゃんやっぱりほんとにひろみ郷とつきあってたんだ・・・
というのと
ああ、でも別れちゃったんだ・・・
というショックとも失望ともつかない複雑な感情を味わっていたように思う。
それからいくらも経たない時に神田正輝との婚約。
僕にはもう何が何だかわからなかった。恋が終わった時の石のような心、だったかもしれない。
この年、僕は一年遅れで大学を卒業し、普通の会社に就職。独身寮での新しい生活を始めた。全てが初めての生活、聖子ちゃんどころではなかった。
結婚を期に聖子ちゃんは芸能活動から去ると言うことだった。山口百恵の前例から、それは「美しい引退」であると誰もが理解していた。
「引退」前最後のテレビ出演。彼女は最後に「赤いスイートピー」を歌った。
歌の終わりに少しまちがえて「ごめんなさい」とつぶやき、そして「ありがとう」と言った。
僕はもうそんな番組があることすら知らなかった。
5年間で少女は普通の人間の何倍もの仕事をし、大急ぎで大人になり、そして僕らの前から去った。
同じ頃に僕はようやく「社会人」の入り口にたどり着いたばかり、中身はいまだ子供のままだった。
これで1980年からの僕の物語は終わりにしなければならない。もちろん松田聖子の物語は続いていくのだが、僕の時計が再び動き始めるのには2008年を待たなければならなかった。







