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2009年5月 8日 (金)

マイアミ午前5時 その1

久しぶりの妄想シリーズ(?)ですが、最後までまとまらないような気がします。まあ、妄想ですから・・・

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国道18号沿いにある喫茶「マイアミ」。ここがおれらのいつものたまり場だ。
マスターのヒロさんはしばらく東京で暮らしてたんだけど、親に呼び戻されて、帰ってくる条件でこの店を始めたらしい。地元でくすぶってるおれらには、あこがれの兄貴みたいな存在だ。
「ヒロさん、でもなんでマイアミなんすか?マイアミ行ったことあるんすか。」
「ねえよ。だけど、こんな山しかないところより良い感じだろ、マイアミってさ。」
でもおれはヒロさんのドン・ジョンソン風の髪型やよく着てる白いジャケットから見て、絶対マイアミ・ヴァイスだとにらんでる。さすがのヒロさんもフェラーリは乗ってないけど。
おれの車はセリカXX。地元に残ってレタス畑を手伝う条件に、親父に買ってもらった。
長野県北佐久郡軽井沢町、ここがおれらの町だ。

ヒロさんの店にたむろしてる連中はみんなおれとおんなじように、地元でくすぶってる奴らだ。勉強ができる奴とか、ちょっと気のきいた奴はみんな東京に行った。この町に残ってるおれらの楽しみは車ぐらいだ。
「なあ、夏になったら旧軽のほうに行ってナンパしようぜ。」
「ばっかじゃねえの。東京の女がおれらの長野ナンバーの国産車に乗る訳ねえべ。あそこでモテんのは品川ナンバーか横浜ナンバーのBMWって決まってんさ。」
「そうなのか。」
「ああ、こないだのホットドッグに書いてあったぞ。」
「どっかで売ってねえの、横浜ナンバー。」
いつもそんな話をして時間をつぶしてた。

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夏までもう一歩という頃、軽井沢では雨でも降ればまだ分厚い上着が欲しくなるが、晴れればきらめくような日差しが降り注ぐ。

レタス畑の仕事は早朝から収穫を始めて、午前中には農協への出荷を済ませる。朝が早いのはきついが、後はヒマになる。その日もおれは昼過ぎに「マイアミ」に顔を出した。いつもの連中は誰も来てなくて、おれはカウンターでヒロさんにコーヒーとナポリタンを頼んだ。

ドアの開くベルの音がして入り口を振り向くと、若い女の子が一人入ってきた。

白いワンピースにリボンのついたつばの広い帽子をかぶっていた。おれのほうを見てちょっとにっこりすると、一つ席を開けてカウンターに腰を下ろした。
彼女はおれの食ってるのを見て、「同じの下さい。」とナポリタンを注文した。
正解。実をいうと、マイアミでヒロさんが出す料理じゃこれが一番無難だ。メニューに載ってる創作イタリアンとかいうのは絶対にやめたほうがいい。
「ねえ、表のクルマあなたの?」
彼女がおれに話しかけてきた。うわあ。
「え、そうだけど。」
「じゃあ、あなたこの辺の人?長野ナンバーでしょ。」
「ああ、地元だけど。」
「ねえ、じゃあ自転車屋さん知らない。あたし夏休みでこの先の別荘に来たんだけど、とっても不便なんですもの。自転車ぐらいないとどこにも行けないわ。」
この先の別荘地ならおれも知ってる。昔々に分譲されたところだから、道が狭くてクルマも入れない。
「君、毎年別荘に来てるの?」
「おじいちゃまの別荘だから子供の頃はよく来てたんだけど、おじいちゃまが亡くなってからはパパもママも来なくなっちゃって。今年は大学の夏休み中、あたし一人で絵を描くことにしたの。」
「へえ、絵とか描くんだ。」
「そう、美大だから。」
カウンターの奥でヒロさんがにやついているが気にするな。
結局この日、おれは彼女をセリカXXに乗せて、中軽井沢の自転車屋まで行った。帰りは自転車に乗っていくと言い張るのをなだめて、別荘地の入り口までトランクに自転車を積んできた。ハッチバックがしまらなくてちょっと目立ったけど。誰か知ってるやつが見てなきゃいいが。。
これがこの年のおれとのりちゃんの夏の始まりだった。

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夏場のレタス農家には休日なんかない。でも午前中一杯の勝負だ。午後からは自由の身。
スタンドに給油しに行くとエイジが寄ってきた。
「おまえこの前クルマに自転車と女乗せてたろ。」あちゃー、やっぱり見てたか。
「あー、あの子なー、親戚よ親戚。夏休みなんだと。」
「嘘こけ。お前にあんな可愛いいとこいるなんて聞いたことねえぞ。誰だよあれ。」
こいつに見られたってことは、もう他のやつらみんなに広まってるってことだ。まあしかたない。この小さな町じゃどうせ秘密なんか持てっこないんだ。

「あの子はのりちゃんといって、東京の美大の女子大生で・・」

「そんなのは知ってるさ。全部ヒロさんから聞いてるで。」

ヒロさん!

この日はのりちゃんは雲場池でスケッチしてるという話だった。雲場池なんか小学校以来近寄ったことなかったけど。入り口に車を停めて池の畔に歩いて行くと、岸辺に腰を降ろしてスケッチしている彼女が見えた。
「こんな池面白いんか?」

彼女はおれの方を振り向くと、笑顔を見せた。

「見て。池の周りの樹の葉の色が一本一本全部違うでしょ。それが水に映ってる色も違うのよ。」

「ふうん、さすが美大生だな。」

「きれいなものがあんまり身近にあるとそれがわからないのよ。」

おれには雲場池の眺めよりも彼女のほうが百万倍もきれいに見えた。

おれは彼女に夢中だった。夢中だったけど、ひとつわかってることがあった。
彼女は夏が終われば東京に帰る。
そしておれはこの町、軽井沢を離れられない。

(多分つづく)

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