妄想に続編があるのも妙な話ですが、世の中には夢の続きを見られる人もいるそうです。すみません、初めての方は先に「Mermaid in blue dress」をどうぞ。
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手の怪我は治ったがあの後みちるには会っていない。あの小娘、電話ひとつよこさない。いや、確かにおれに「治ったら電話して。」とは言ってたが、考えてみるとみちるの電話番号を聞いてなかったのに気がついた。まったく。。
まあ、おれも長めの取材旅行やら何やらで忙しかった。原稿に追われてるのも相変わらずだ。と言ってみちるのことを忘れたわけじゃない。いや忘れられないと言ったほうが合ってるか。夢にまで出ては来ないが。
そんなわけで、気がつくと半年ぐらい経ってしまった。ああ、あのキャバクラには一度行ったな。逆に店長にみちるのことを聞かれて困った。
「ミシェルちゃん、結構人気あったんすよ。センセイ、どこ隠してんすか、教えてくださいよ。」っておれも知らないの、ホント。
いや、一人知ってそうな奴はいる。池辺だ。あいつ、みちるに就職を紹介するとかいう話だった。だけどなあ、あいつに聞くってのもなあ。自分の愛人の居場所を担当編集者に聞くってのも妙だよな。第一あいつには弱みを握られたくないんだよな。くそっ、背に腹は代えられんか。
「池辺ちゃん、あのほら、リッツセントラルでおれが骨折した時のあの娘、みちるどうしてる?」
池辺の目が一瞬点になった。が、すぐにいつものくそ真面目な顔に戻って、
「ええ、就職先紹介しまして、そのままずっとそこで働かれてるはずですが。」
池辺が紹介したのは、こいつの会社の関連の雑誌編集部だった。ちょいと硬めの老舗月刊誌。おれの小説なんか絶対に載らないところだ。
「いや、最近しばらく会ってないんだけど、携帯換えた時にあいつの番号消えちゃってさ。」なんて下手くそな嘘だ。携帯なんか換えてねえし。
池辺は自分の黒い手帳を引っぱりだした。「ええと、ああ、ありました。でも家の電話ですよ。」ああ、それでいい。
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夜に電話した。
「はい、松平でございます。」年配の女の声、げっ、家の電話って実家なのか。
おそらく母親だろう。典型的な山の手のアクセント、ほんとうにいいウチの品のいいしゃべり方、おれの一番苦手な相手だ。背中から汗が噴き出してきた。
「あ、はい、夜分恐れいります、ワタクシ著述業をやっております・・・」ダメだ著述業はかまずに言えたが、声が完全に裏返りそうだ。
「あら、先生のご本はいつも読ませて頂いてますのよ。みちるですか。まあ、あの子ったら先生のお仕事もしてますの。家では何も言わないものですから。あ、ちょっとお待ち頂けます、ちょうどお風呂から上がったようですから。」
お母さんが読者で良かった。山の手の奥様も「落ち武者自衛隊」読んでくれてるのか。
「あら、ケンちゃん。いやだわ、お風呂入っててまだ髪が濡れてるのよ。」
みちるの声だ。つい昨日会ったような調子でしゃべってる。でも、あいつこんなに色っぽい声だったか。
「全然電話もくれないからどうしたのかと思っちゃった。どうしてたの。」
いや普通に取材行ったり原稿書いたり。
「実家なのか。」
「そうよ。言わなかった?」
まあ、聞きもしなかったが。だけど、松平って。
「そう、時代劇みたいでしょ。だから嫌なの。」
なあ、静岡のほうに親戚いないか?
「え、親戚はあちこちいっぱいいるけど、よくわかんないわ。なんで?」
いや、別に。。
「ねえ、それより何?急に電話くれたりして。もしかして、ウチの雑誌に売り込み?ケンちゃん、なんかウチではすごく評判悪いわよ。」
まあ、前にいろいろあったしな。いや、そんなことじゃない。
大体おれ何でみちるに電話してんだろ?
「お花見しないか。ちょうど満開だぞ。」自分でも予想しない言葉が口から出た。
「いつ?」
「明日の晩。」
「仕事いつも遅いのよ。」
「いいさ、遅くたって。じゃあ、明日な。」
待ち合わせの約束をして電話を切った。携帯を持ってる手にやたらに力が入ってたことに気がついた。花見か。。。
(先の展開が見え見えですが、続きます)