Mermaid in blue dress 1
妄想はどうも季節を選ばないようで。おまけに何だか暴走気味に長くなってしまいまして・・・
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8月の暑い日、おれはリッツセントラルハイアット東京のティーラウンジで人待ちをしていた。待ち人の来る確率は二分ぐらいかと思っていた。何しろ昨夜六本木のキャバクラで拾った女の子だからな。
キャバクラにしては何とも「ノリの悪い子」だった。脚はきれいだったが、胸は貧弱だったし。あんまり貧弱なんで珍しくなって、触って確かめようとしてひっぱたかれた。
「きみみたいなのはキャバクラには向いてないな。銀座か赤坂の高い店に行ったほうがいい。」
「あら、それだったら紹介してよ、そういうお店。」
「いいけど、その前におれの愛人になるってのはどう。明日から一週間、リッツセントラルハイアット東京のスイートルームだ。いいだろ。」
「ふ〜ん、悪くないかな。」
ということで、愛人候補を待ってるわけだ。ああ、スイートルームってのは嘘じゃない。何しろ新作の書き下ろしのために哀れ一週間出版社に缶詰めにされるところだ。せめてもの抵抗でリッツセントラルのスイートを要求したんだ。次の新作?構想だけは決まってる。平家の落ち武者が現代にタイムスリップして、自衛隊に潜入し内部の腐敗をあばいて大活躍するって小説だ。タイトルは「落ち武者自衛隊(仮)」。落ち武者探偵シリーズはおれの人気シリーズだからな。読む奴の気は知れないが・・・
指定した時間に12分遅れて彼女は現れた。上出来だ。昼もミニスカートできれいなお御脚をサービスしてくれてる。ていうか、キャバクラの衣装そのまんまだ。
「ホントだったのね。」
「インディアン嘘つかない。」
「何それ」
「ここに来たってことはOKってことだな、おれの愛人になる件。」
別に妻子がいるわけじゃなし、「愛人」という必要もないんだが、普通の彼女っていうよりなんか小説家っぽいだろ。
「そうね。ケンちゃんの言う通りキャバクラもやめてきちゃったし。」
この小娘、おれにはなぜかタメ口でケンちゃん呼ばわりだ。
「ほんとに店やめたのか。」
「ケンちゃんがやめろって言ったんじゃない。どうせあたしもやめるつもりだったし。」
「まあ、一週間はホテル暮しだ。食うのと寝るのには困らない。ホテルのプールもあるしね。」
「水着なんて持ってきてないわよ。」
「ホテルの中にブティックとかいろいろあるから買っていいぞ。全部ルームナンバーに付けときゃいいんだ。」どうせ出版社に払わせるんだし。
「ホント?うれしい!」
「服も買えよ。それキャバクラのドレスだろ。」
「うん、辞める時ぐだぐだ言われたから頭に来てもらってきちゃった。」
「ちょっとここじゃ目立ち過ぎるな。美容院にも行ったほうがいいな。
ところできみ名前は?ミシェルってのは源氏名だろ。」金髪で瞳の色が薄くて「ミシェル」に見えないこともないが。
「みちるっていうの。ローマ字で書くと似てるからお店ではミシェルにしてたのよ。」
そんな話をしてると、担当編集者の池辺が現れた。こっちは相変わらず時間ぴったり、相変わらずの角ぶち眼鏡だ。部屋の準備が出来たんだろう。奴さんおれと一緒にみちるがいるのを見て、冷静を装いながらも訝しんでる気配がにじんでいる。こいつにはもちろん彼女の話はしてない。来なかったらカッコ悪いからな。
「おう、池辺ちゃん。部屋もうOK?
みちるちゃん、こちら出版社の池辺ちゃん」
「はじめまして。ケンちゃんの愛人のみちるです。」
おれは飲みかけてたコーヒーを吹き出しそうになった。普通自分で言わないだろ、愛人て。
「池辺ちゃん、まそういうことだから、この子も一緒な、缶詰め。」
池辺は状況を理解したようだ。
「わかりました、先生。でも缶詰めというのは、あくまで原稿を書いて頂かないといけないんですから。お忘れなく。」
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3人でエレベーターに乗り込み部屋に移動した。最上階の一つ下の「ジュニア・スイート」とかいう部屋だった。
「何だよ、ジュニアってのは。」おれが不満をいうと、
「プレミアム・スイートは最上階のワンフロア全部です。ベッドルーム8つだそうです。そんなには要らないでしょう、先生。」
「あっそう。」
”ジュニア”・スイートで十分だった。大広間みたいなリビングにベッドルームが3つ、キッチンにミニ・バー、ジャグジー付きのバスルームやらがついてる。みちるは単純にうれしそうな顔をしている。
「では私はこちらの部屋を使わせて頂きますので。先生とみちるさんはお好きな部屋を一部屋づつどうぞ。」
お前さんもやっぱり一緒なわけね、池辺ちゃん。と思ってるそばから、
「あっ、かわいい♡あたしこっちの部屋」とみちるが叫んでいる。なんでおれが残った部屋なのか、納得いかん。だいたいおれと愛人と別々の部屋なわけ?
「先生の執筆中は時間が不規則になりますから、やはりお部屋は別にされたほうが。ちょうど部屋数もあってますし。」はいはい。
缶詰め生活が始まった。
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みちるには最初に美容院に行かせた。
その間、池辺は「仕事場」のセッティングだの会社への連絡だのをやってた。オレは高層階からの東京の街の景観を見るともなく眺めながら、構想を練っていた。いや人に聞かれたらそう答えるという話で、実際はただぼうっとしていたんだ。ああ、さっきの高層と構想をちょっとかけてるのね。あ、余計?あ、そう。
リッツセントラルハイアットのスイートルームに感慨がないわけじゃない。いや大有りだ。物書きといって食えるようになったのだってようやく最近の話だ。こんなスイートでの缶詰めも初めてだし、出版社にふっかけて自分の値踏みをしたいようなところもあった。だからリッツセントラルには満足していた。池辺には言わないが。
しばらくして、美容院からみちるが帰ってきた。
セミロングの金髪がばっさり黒髪のショートに変っていた。顔の化粧もすっかり変って、ちょっと見素顔みたいな顔になっていた。まるでゆで玉子みたいな肌、薄化粧になるとあどけなささえ漂っていた。
おれと池辺があっけに取られたような顔をしているのに気付いたのか、みちるはちょっとバツが悪そうに
「なんか美容師の人テンション上がっちゃって、髪型はこっちがいいとか、メイクは薄いほうがいいとか、どんどん変えられちゃって。変じゃない?」
変じゃないさ。まるで「ローマの休日」だ。
「だけど、きみトシいくつだ?」
「はたちよ。」
なにい、二十歳だと。若いとは思ってたが・・・
「よおし、じゃ服買いに行くか。池辺ちゃん、それぐらい良いだろ。よろしくな。」
ホテルの中のブティックでひとしきり「プリティ・ウーマン」気分を味わった。まあ、おれの方はリチャード・ギアなわけないが、みちるはジュリア・ロバーツよりずっといい女だ。
「ねえ、水着も買っていい?」
「おう、買え、買え。」
みちるが選んだのは、黒のワンショルダーのワンピースと肩にフリルのついた青のワンピースだった。
「ビキニじゃないのか。」
「だって、あたしの胸じゃ似合わないもの。これ似合わない?」
いや、最高だ。。。
(まだ続きます)


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