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2009年1月10日 (土)

Mermaid in blue dress 2

カーステレオは自然治癒しました。おかげで「聖子ちゃん通勤」復活。白黒の風景がカラーになった気分です。

妄想の続きです。

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「あたし、吉野家の牛丼食べたい。」
缶詰め生活が三日もすると、ホテル内の高級レストランの飯も一通り食っちまって、そういうことになる。おれも食いたいよ、吉牛。
「愛人って退屈なのね。想像してたのと違うわ。」
どんな想像だよ。
「本妻の人が乗り込んできて修羅場になったりとか。」
残念ながらおれには本妻自体いない。
それはいいが結局原稿には追われてるし池辺の目が光ってるおかげで、愛人らしいこともまったく出来ない。
「退屈だったら本でも読んでろよ。」
おれは資料として持ち込んだ本をみちるに手渡した。
吉川英治「新・平家物語」、宮尾登美子「義経」、半村良「戦国自衛隊」、森村誠一「野生の証明」・・・
「ねえ、小説って人の本見ながら書くの?なんだかカンニングみたい。」
「これは資料だよ、資料。あと、前に出てる本とカブらないようにチェックしてるんだよ。」
どうだか。何しろ正直は北アフリカの砂漠に置いて来た男だ。
「本はいいわ。プール行ってきていい?」
「あ、いいね。おれも行く。」
池辺が嫌な顔をしたのがわかった。何しろ原稿はあんまり進んでない。
「まあ、気分転換もしないとさ。」
「先生はせめて今の章を書き終わってからにしてください。」
しょうがねえな。え〜と、「熊谷は背後の危険を一瞬早く察知した・・・」

おれも水着に着替えてホテルのプールに行った。
人気のないプールサイドに並ぶデッキチェアの一つに、ミントブルーの水着を着たみちるが横たわっていた。目を閉じてまどろんでいるようだった。髪を短くしたおかげで白いうなじがよく見えた。人魚というのが本当にいるとしたらこんな姿をしてるのかもしれない。青い人魚。
じっと眺めているおれの視線に気づいたのか、みちるが目を開けた。
「ケンちゃん、意外とお腹出てないのね。」
ああ、これでも元外人傭兵部隊だからな。身体にはそれなりに気をつかってる。
「あたしの水着ずっと見てたでしょ。いやらしいんだ。」
「うるさいな。愛人だったら裸見たって文句は言われないはずだろ。」
おれはみちるの華奢な体を抱き上げると、そのままプールにジャンプした。
「きゃあ、やめて〜」
水しぶきが派手に上がり、小さな虹が見えた。

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「それでプールで転んで右手骨折ですか。」
「いや、ちょっとヒビが入っただけよ。」
同じことだ。池辺が心なしか青い顔をしてる。そりゃそうだ、原稿はまだ半分ぐらいしか出来てないってのに、おれはキーボードが打てなくなった。医者が来ておれの右手をミイラ男みたいに固めてった。
おれだって腹の中では真っ青になってる。
ちゃらんぽらんなようだが、おれは作家で食えるようになってから、書き下ろしにしろ連載にしろ一度も原稿を落としたことがない。傑作じゃなくたっていつも出版社の必要な字数を期限通りに埋めてきた。だからこそおれ程度の才能でなんとか作家として食っていられる。そのことは自分が一番よくわかってる。
「あれで行こうぜ。口述筆記ってやつ」
言ってみて思い出した。池辺は今どきの人間とは思えないほどパソコンが苦手なのだ。おれへの連絡もたいがい電話か手書きのファックスだ。携帯のメールを打ってるのだって見たことがない。まあ、原稿を書くのはおれだからかまわないが、出版社の仕事だっていまどきメールやらワープロが打てなきゃ不便だろうに。

もっともおれはそんな奴だからこいつをおれの担当にしてるのかもしれない。この文学青年くずれは歴代の芥川賞作家や直木賞作家の名前と受賞作を全部暗記してるらしい。こいつはおれの作品をいつも傑作と誉めてくれるが、その目は本気でそう思ってるらしい。
それにしても困ったな。いまからタイピングできる人間を捜すと言っても・・
「あたしワープロぐらい打てるわよ。」みちるが言った。
ワープロじゃなくてエディターなんだけどな。
「みちるさん、本当ですか。ちょっとやってみて下さい。」池辺の表情が明るくなった。
おれは、原稿の続きを口で言ってみた。
「100メートル先の薮の中に潜んでいる人間が、那須にははっきり見えているようだった。89式5.56mm小銃を構えると少しのためらいも見せずに発射した。相手にまったく反撃を行う時間を与えずに3人を打ち倒した。背後からこの様子を見ていた敦盛は思わず『鬼神』と口の中でつぶやいた。」
みちるの白い指がキーボードの上をよどみなく動いていた。ブラインド・タッチ、画面を覗くと変換も完璧だった。
「ワープロの資格なんてなんの役にも立たないと思ってたけど、たまには役に立つみたいね。」みちるはおれに向かって一つウインクした。
人魚には天使の翼も生えてるらしい。ストーリーの続きも何だか上から降りてきたみたいだ。今日は徹夜だな。

*****************************

7日目の朝に原稿は出来上がった。
ジュニア・スイート・ルームを出て、おれとみちるはティーラウンジのソファーに座っていた。
「おれんちに来るか。」
「あのね、あたしやっぱりお仕事するわ。池辺さんが就職紹介してくれるって。」
あいつ余計なことを。
「そんならおれの秘書だっていいじゃないか。」
「ううん、仕事は別じゃなくちゃ。ケンちゃんはあたしのア・イ・ジ・ンでしょ。」
「タクシーで送ってくよ。」
「地下鉄で大丈夫。ケンちゃんはその手じゃタクシーのほうがいいわね。怪我が直ったら電話して。」
みちるはおれの額にフランス映画みたいなキスをすると立ち上がり、真っすぐエントランスに向かって歩いて行った。人魚には帰る海があるらしい。
(おしまい)

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コメント

「青」もいいですが、画質や可愛らしさで「黒」も捨てがたいですよね。

しかし、すごいです。
創作の心得がおありなのでしょうか?
妄想の域を超えてますw

恐縮です。
マーメイド当時は黒の衣装が多かったみたいですね。「振り向けば」では白い服でした。でも僕はやっぱり「青人魚」派なもので。「振り向けば」では同じ衣装で「珊瑚礁」を歌ってますが、全然印象が違います。

長編ですねえ
「待ってました たっぷり!」

キャバクラで、にべない態度の彼女。
(うん、それでいいよみちる!)
オープニングではまってしまった。

とらわれの心のまま読み進めたわたしは、ショートの黒髪に変身したみちるに
見とれ忘我の境地に。
黒のワンショルダーの水着をおねだりも
された。
んーまずい、完全に小説の世界にトリップしている。
動画サイトの記憶色と妄想小説の期待色が交錯して何て言うんでしょう、泣砂の浜を彷徨ったような気分(笑)

理無い二人になりそでならない。
センスがきらり光った妄想小説
mermaid in blue dress
いやあ、Mirage 1980さんにしてやられた。
ずるいよっ!ってことでクセになった
私は、スピンオフ「落ち武者自衛隊」 を
切に希望するのであった・・・

narrative1980様
大向こうからありがとうございます。
ちょっと風邪を引いて臥せっておりました。そうするとまた変な妄想がわいてきまして。まともな社会生活ができなくなるのではと不安です。

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