妄想シリーズも今年はこれで最後です。
(ここから)
僕の名前は田沼雄一、京南大学でスキー部の主将をやっている。
今僕がつき合っている子はのりちゃんだ。
この夏に海で知り合って以来、時々デートしているんだ。
ところが、僕らスキー部は冬ともなれば雪山で合宿生活。東京にはしばらく帰れない。デートする機会がなくなっちゃったんだ。
でも、のりちゃんも大学が休みになったからと、僕らの合宿所に来てくれることになった。ヤッホウ。食事の支度なんかを手伝ってくれるというから、今年の合宿は天国だ。よ〜し、がんがん練習して今年の大学選手権は絶対ウチが優勝だ。
苗場にある合宿所のロッジにのりちゃんが来る日は朝からそわそわ。バスの着くところまでマネージャーの江口と一緒に迎えに行った。
待ち合わせ場所にはのりちゃんとのりちゃんの友達の良美ちゃん、それに青大将。ん、青大将、なんでお前もいるんだよ。
え、二人をお前のクルマで送ってきてくれたのか。そうか、ご苦労さんだったな。じゃあ気をつけて帰れよ。なに、お前も合宿所に来る?お前スキー部じゃないじゃないか。しょうがないなあ、まったく。
久し振りに会うのりちゃんは、白いスキーウェアでいつもの笑顔を見せてくれた。
のりちゃん、髪短くしたんだ。
あ、うん、似合ってるよ。
今年の合宿は楽しくなった。練習の休憩時間にはのりちゃんたちがコーヒーを入れて待っててくれる。夕食の後は大きなストーブのある食堂件ホールで、ギターをひいてみんなで歌ったりダンスしたり。
練習を休みにして自由行動という日、僕はのりちゃんにスキーを教えてあげる約束をしていた。ところが青大将のやつ、
「田沼、良美ちゃんにも一緒に教えてやれよ。オレも手伝ってやるからさ。」
まったくお前が一番スキーできないんだろ。何考えてんだよ、まったく。でも良美ちゃんの手前断れないじゃないか。
ゲレンデに出てみると良美ちゃんはほんとに初心者だった。しょうがないから手取り足取り。なんだかのりちゃんの目がちょっとこわい。大体、良美ちゃんは君の友達だろ。
おい、青大将、なんだって。のりちゃんとお前は少し滑れるから、上のゲレンデ行ってくる?
勝手にしろ!
特訓のおかげで良美ちゃんもどうにかボーゲンで滑っておりられるようになった。次は青大将に面倒見させよう。
夕方、合宿所のロッジに戻るとのりちゃんはまだ帰っていなかった。
まったく青大将の奴、どこ引っぱり回してるんだ。おい、青大将いるじゃないか。え、一度帰ってきてのりちゃんだけ出かけてった?もう暗くなるぞ。
僕はまたゲレンデに探しに戻った。もうリフトも停まっていた。幸いスキーは置いてったようだから、そう遠くへは行けないはずだ。見当をつけて初心者ゲレンデのゆるいスロープを登っていくと、一筋の足跡。歩幅から見て、女の子のものらしかった。
終点の小さな丘の上に人影がひとつ見えた。
彼女は僕に気づくと、ぷいと横を向いた。
馬鹿野郎!心配するじゃないか。
言いかけたが、彼女の目に涙が光ったように見えて口から言葉が出なかった。
ポン!
彼女が僕の胸に投げつけた雪玉が命中。
やったな。
彼女のところに駆け寄って捕まえると、彼女のポケットから小さな箱が落ちた。
拾い上げると金色のリボンをかけた小さな箱。
「田沼さん、今日がクリスマス・イブだって忘れてたでしょ。」
そうか。練習に夢中で気がつかなかった。
「いいわ、許してあげる。
帰りましょ、今頃石山さんとかみんなでパーティーの準備してるわよ。」
やれやれ、青大将に一本取られたみたいだ。
でも、のりちゃんが笑顔になってくれたから、まっいいかあ。

のりちゃん、僕がおんぶして滑ってくぞ。
メリー・クリスマス!
(おしまい)