10月になったので、妄想シリーズ(シリーズかい!)第2弾はこれ。
(ここから妄想)
秋風とともに一通のエアメールが配達された。
見慣れない国の見慣れない切手。だが、誰からのものかはすぐにわかった。
新入生の彼女が僕らのサークルに現れたのは2年前だった。
僕らのサークル、と言ったって何かちゃんとした活動をしているわけじゃない。コンパをするのが唯一の活動みたいなもんだった。名前だけは「国際交流研究会」だったけど。
その彼女、およそ僕らのサークルには場違いな感じだった。少女漫画の主人公のようなセミロング巻き髪ヘア、お嬢様風のワンピース。
こんなかわい子ちゃん、うちのサークルの実態がわかればすぐにいなくなるだろうとみんな思っていたのだが、何が気に入ったのか不思議なことにそのまま居着いてしまった。まあ、誰もかわい子ちゃんがきらいなわけはなく、みんな結構ちやほやしていたから、それが功を奏したのかもしれない。
僕はといえば、サークルでは一目置かれている存在だったから、他の連中のように彼女をちやほやするわけにも行かなかった。
僕が一目置かれていたというのも、そう大した理由じゃなく、大学を1年休学して海外を一年放浪した経験がみんなに過大評価されていただけだった。まあ、海外を旅行してたのは嘘じゃないが、実際そんな放浪というほどワイルドな経験をしたわけでもなかった。最初はアメリカに留学してる高校の時の友達のところに転がり込んでみただけ。その後はむこうで知り合った奴にくっついてインドに行ったり、そこでまた日本人が集まってる安宿でぶらぶらして、また他の奴にくっついて別の国に行ったり。何か目的があっての旅でもなかったし、いつも日本人と一緒にいたせいで、英語だって大して身に付かなかった。
それでもコンパの時には、「インドってさあ、やっぱ価値観とか世界観変えられちゃうよね。」だのほざいていれば海外通のような顔をしていられた。
そんな僕に、これまたなぜかはわからないが、かわい子ちゃんの彼女はなついてきた。
「私、将来は国際貢献とか国際交流とか、そういう仕事がしたいんです。」目をきらきらさせてそんな事を言う彼女。完全に言う相手を間違えている。
「あれこれ考えてる前に海外に飛び出して、自分の目で世界を見てみなきゃ何も始まらないぜ。そんなお嬢様みたいな服着てるんじゃダメさ。」自分のことは棚に上げてえらそうなことばかり。
だから彼女が突然長い髪をばっさりショートにした時には驚いた。
彼女なりに大人になろうとしている決意のひとつだったのかもしれない。ショート・ヘアになっても相変わらずのかわい子ちゃん、サークルのアイドルだったのだけど。
大学のサークルなんて、ほれたのはれたのの話には事欠かない。
かわい子ちゃんももちろん例外じゃなく、何を考えたかよりによって僕に今度は恋愛相談。同じサークルの○○と△△と××、3人から告白されて、だけど彼女の意中の人は別にいるのに、さっぱりそいつの気持ちがわからないとかなんとか。
「ま、でもとにかく、自分を大事にすることかな。」なんて先輩面して言ってみたものの、説得力ゼロだな。なにしろ、つい気になって、聞かなくてもいいこと聞いちまった。
「それで、そいつとは、もうやったのか?」
彼女、顔を真っ赤にして下を向き首を降ると、何も言わずに帰って行った。そりゃそうだわな。
それからしばらく、彼女はサークルに姿を現さなくなった。
そして彼女は、大学3年目の年に1年休学して、あるNGO団体のボランティアとしてヒマラヤの麓の村に行ってしまった。まわりはショートカットの時以上にあっけに取られるばかり。僕はといえばその年も卒業できず、就職浪人と称してまだ大学でぶらぶら。
春に旅立った彼女からのエアメールを受け取ったのは、もう10月になった頃だった。
「こちらに来てからあっと言う間に5ヶ月もたってしまいました。来たばかりの時はすべてがカルチャー・ショックの連続でした。本当に先輩の言っていた通り、自分の目で見なければわからないということを実感しました。
でも、最近はようやくこちらの生活にも慣れて、現地の子供達ともコミュニケーションが取れるようになってきました。日本と比べるといろんな面で恵まれていませんが、どの子も目がとても澄んでいて、素敵な笑顔を見せてくれます。きのうは子供達が野性のバラを花束にして私にプレゼントしてくれました。こんな体験が出来るのも先輩がいろんなことを教えてくれたから、そして私の背中を押してくれたからだと思ってとても感謝しています。
こちらでは雨期が終わり、今まであまり見えなかった山々がよく見えるようになりました。なかでも神の山として信仰されている山が「テュルリ・ラ」というとてもきれいな山です。この山がよく見える日にはいろんな願い事をするのだそうです。
でも「テュルリ・ラ」ってなんだか楽しい名前でしょ。私、「テュルリラ、テュルリラ」って節をつけて歌ったりしてるんです。もちろんお願いごとをしながらですよ。」
「テュルリラ、テュルリラ」か。
二十歳の彼女は僕よりももうずっと大人みたいだ。
僕も来春こそは大学を卒業しよう。
(おしまい)