遥かなる影
「涙のしずく」は三拍子、ワルツなんですよね。。
あ、それだけです。
カーペンターズの「Close to you」が全米ナンバーワン・ヒットに輝いたのは1970年だったという。70年といえば日本では三波春夫が「こんにちわ こんにちわ 世界の国から」と歌っていた頃だが、田舎の小学生にはまだアメリカのヒット曲は届いていなかったと思う。それでもカーペンターズの人気というのは世界的なものだったから、彼女たちが「トップ・オブ・ザ・ワールド」や「イエスタデイ・ワンス・モア」を歌う頃には僕の同級生たちも夢中になって聴いていたし、小学校の校内放送のスピーカーからも「トップ・オブ・ザ・ワールド」は流れていたように思う。
「Close to you」の邦題は「遥かなる影」。実はこれも僕の記憶では結びついてなくて、調べて始めて知ったようなことなのだが。とはいえ、この邦題は秀逸だと思う。改めて歌詞も見てみたのだが、アメリカ人らしい(?)激甘のラブソング、ちょっと日本人には受け入れられないんじゃないかという感じがする。それに比べるとこのバート・バカラックのメロディとカレン・カーペンターの明るさの中にかすかな憂い、切なさの漂う歌声には「遥かなる影」のほうがよほどしっくりくる。この頃はよほど日本人の英語能力が向上したためか(もちろん嫌味で言ってるのだが)、英語の曲に邦題をつけることもなくなったようだし、日本人の曲のタイトルすら英語ということも多くなった。しかしこの「遥かなる影」などを見るとちょっと前のレコード会社の人には言語的センスのいい人がいたのだなと思う。
それにしても、カレンの歌声を聴くと、歌というのは結局のところ「声」なのだとあらためて思う。上手いとか下手だとか表現力だとかテクニックだとか、そんなことでは云々できない。一度聴いただけで忘れられない、直感的に感じる魅力、だから天賦の才としか言いようがなくて身も蓋もなくなってしまうのだが。天賦の才を授かってしまった人間の努力だとか苦悩だとかそういうものをまるで無視してしまうような物言いになってしまうのも辛いところだ。
もっとも音楽を聴くのにも実はそれなりの才能を必要とするのかもしれないと思うのは、ことピアノなんかになると辻井伸行くんの天才というのが僕には理解できないからで。これは彼をくさそうというのでは全くなくて、純粋にピアノの良し悪しというのを判別する能力が僕には備わっていないようだ。楽器が全てわからないかというと、高橋竹山の三味線の音が他の人とはどうも違うというのは何となく解るから、ある程度は経験値ちというか努力で補えということかもしれない。
カレンはアルトのポップ・シンガーの端緒を開いた人などとも書かれていたが、それはともかく確かに初めて彼女の声を聴いた小学生の僕には、女性か男性かよくわからなかったことは記憶している。「Close to you」は聖子ちゃんにはちょっと低くてつらいんじゃないかという気もしないでもないが、「努力する天才」のことだから収録にあたっては使われてる部分だけじゃなくてフルコーラスちゃんと練習してることだろう。バカラック、辻井伸行、松田聖子という天才たちの饗宴を(そしてシルエットとしてのカレン・カーペンターも含めて)フルで聴いてみたいものだ。いずれBOSSシリーズで「Eternal III」もありじゃないですかねえ、ユニバーサルさん。
ドナ・サマーはまだ63歳だったとか。これも早すぎる。合掌



